星の天使

とらいあんぐるハート2の知佳シナリオで出てきた物語を元に、

自分でストーリーを変えたり付け加えたりしてみました。


綺麗な星の見える夜に、私は一人ぼっちになった。

安らかな寝顔・・・そう、本当にただ眠っているだけに見えた。

涙は出ない。

悲しすぎて出てこないのだ。

無き崩れる周りの人達に耐えきれず、私は外に飛び出した。

無我夢中で走りつづけ、気がつくといつのまにか見知らぬ丘に立っていた。

「・・・・・・流星はね、空の流す涙なんだよ。空が悲しいことがあると、ほろりと流星をこぼすんだ」

突然聞こえてきた声に顔を上げると、そこにはいつのまにか少女がいた。

この世の物とは違う、不思議な美しさのヴェールをまとった少女は、こちらに近づいてくると私に話し掛けてきた。

「・・・ほら、あれを見てごらん」

私は少女が指した空を見上げる。

その瞬間、空を一筋の光が翔けぬけた。

「あ!」

「今のはきみの心の流す涙と愛する者の魂・・・」

その言葉の後に、もう一筋の星が流れる。

「そして空の悲しみ・・・。夜空もきみの為に涙をながしているね」

透き通るような少女の声と微笑みに、私の中の『なにか』が込み上げてくる。

「ぼくは空の涙を、受けとめる仕事をしているんだ。だからきみの涙も、きっとぼくが受けとめてあげる」

溢れ出す涙を止めることができなかった。

「流した涙で、悲しみは心の中にしまおう」

そのまま泣き崩れる私を、少女はそっと抱きしめる。

そのぬくもりの中で、ただ無言で泣きつづけた。

 

埋葬も終わり、誰も待つ者のいない家に帰る。

ただ孤独な夜。

気がつくと私の足は自然とあの丘を目指していた。

もう1度あの少女に会いたい。

何故かはわからない。けど、今行かなければ必ず後悔する。

そんな気がしていた。

しばらくしてようやくあの丘が見えてくる。

今日もあの少女はそで空を見上げていた。

「星をみてるんだ」

少女は鈴の音のような声でつぶやく。

「星を数えるのがぼくの仕事のひとつなんだよ」

そういった後、少女は振り向きながら私に語り掛けてきた。

「・・・・・・や、きみも星を見に?」

「星と・・・きみを見に」

私の言った言葉に少女は少し嬉しそうに呟く。

「ぼくをかい?ふふ、それは光栄だね」

そのまま二人とも無言で空を見つづける。

そして夜明け近くに少女が話し出した。

「さて、そろそろここを離れる時間のようだね」

「・・・また会いたい」

私の言葉に、少女は始めて悲しそうな表情を見せた。

「残念だけど、それは無理なんだ・・・」

「どういうことだ?」

「『帰る』んだ。空へ・・・」

私は言葉の意味を理解できなかった。

唖然として少女を見つめていると、少女は笑っているような悲しんでいるような複雑な表情で語りかける。

「何度やってもこういうのは慣れないね。別れ・・・というのは」

「・・・私も一緒に行くことはできないのか?」

少女は首を横に振った。

「きみは星になるにはまだ早いよ」

そう言った瞬間、少女の背中に眩い光を放つ翼が現れた。

私はその言葉を聞きながら、いつのまにか涙を流していた。

「きみがもう涙を落とさないように・・・」

少女はそう言いながら私に近づいてくると、私の瞼にそっと口付けをした。

「いつか星になったら・・・また会えるかい?」

精一杯搾り出したの言葉に、少女は優しく微笑みながら答える。

「・・・かもね」

背中の翼をはためかせて、少女は天に昇って行く。

私はずっとその姿を見つづけていた・・・・・・。

 

 

ぱちぱちぱちぱちぱち。

ビデオ上映の終わった教室に拍手の音が響きわたる。

私立聖祥女子学園祭の知佳のクラスの出し物は『自作ビデオ上映』。

できはかなりの物で、あちこちから感嘆の声が聞こえる。

「評判は上々だね、お兄ちゃん」

「ああ。知佳の小説を、真雪さんが演劇用にしてくれたおかげだな」

主演した当人、知佳と耕介は教室の端の方でその声を満足げに聞いていた。

「みんな最後の部分をCGだと思ってたね」

「撮影方法は企業秘密だな」

まるでいたずらが成功したような表情で二人は喜ぶ。

しばらく談笑した後、耕介がふとした疑問を持ちかけた。

「でも、なんで俺が出演することになったんだ?クラスの出し物なのに」

「あ、えと・・・やっぱり男の人がいたほうがバランスとれるし」

知佳はあさっての方向をみながら話す。

その会話を一緒に聞いていたクラスメートが、耕介に耳打ちした。

「主役の知佳ちゃんが『相手はどうしてもお兄ちゃんじゃなきゃイヤ』と言ったんですよ」

「なななななななな何を!?」

知佳はしどろもどろになりながら、必死で誤魔化そうとする。

その光景を耕介は笑いながら見ていた。

そんな話をひとしきりした後、二人は静かな屋上に出た。

「改めて見ると、あんまりスカッとしたハッピーエンドじゃないな」

「うん、結構悲しい物語だよね」

知佳はそう言った後、耕介の頬に軽くキスする。

「でも、私達は星になるまで、ずっと一緒にいようね」

「こっちの天使は絶対に離れなそうだな」

耕介が笑いながら答える。

「えへへ〜、絶対離さないもん。お兄ちゃん、大好きだよ」

幸せな声が響き渡る。

これからも、ずっとこの町で・・・。