情熱のリトルガール
(後編)
渦巻く陰謀に唸れハリセン!!
という感じで後編です(笑)
1週間後・・・。
小野寺は昼休みに宗介とかなめを呼び出していた。
「尾行!?誰の?」
「理緒のだよ。」
かなめの問いに小野寺が答える。
その答えにもかなめは納得出来ない様子だ。
「なんでそんな事しなきゃならないのよ。」
「そこまでは知らないんだ、俺はあいつの母ちゃんに頼まれただけなんだから。」
小野寺の不可解な回答に、かなめはますます訝しげな表情になっていく。
そのとき、それまでずっと沈黙していた宗介が口を開いた。
「風間の情報によると槙原は近頃、朝練も放課後の部活も休みがちらしい。」
「そうなんだ。いいわよ、協力してあげる。それにしても、風間君って何でも知ってるんだね。」
やっとかなめは納得したらしく、小野寺に了承の返事をした。
「じゃぁ、次の日曜の9時に駅に集合な。」
日曜日。
『センパイ、次は何に乗ります?』
『そうだね・・・ジェットコースターにでも行ってみようか。』
『はい〜♪』
理緒は先輩の言葉に幸せそうにうなずく。
デートが始まってからずっとこんな調子である。
「幸せそうな会話してるじゃない。デートで部活の時間がなくなってるだけみたいね。」
「そうみたいだな。退屈だし、尾行なんて止めてもう帰るか?」
かなめの言葉に小野寺もうなずく。
平和なデート風景をずっと見せ付けられているので、二人ともいい加減飽きていきたようだ。
「移動するようだぞ。」
退屈そうな二人の言葉を宗介がさえぎる。
「まだやるの?もういいと思うけど。」
かなめはうんざりした顔で宗介を見る。
小野寺も「もういいよ」というような仕種をしながら、宗介に聞いていた。
「これ以上はムダだって。でも、何でそこまでやるんだ?」
「あの男・・・何かを企んでいる人間の目をしている。」
宗答える宗介に、かなめはあきれながら叫ぶ。
「そんなわけないでしょ!ったく、この戦争ボケは・・・」
ぶつぶつ言いながらも、結局宗介について行くことになる。
そうこうしているうちに、いつのまにか歓楽街の方にまで来ていた。
『あ、近道知ってるんだ。そっちから行こう』
『はい〜♪』
理緒は先輩の言うことを疑いもせず、裏道へとはいって行く。
「なんか妖しい裏道に入っていったぜ。」
「単なる近道でしょ。」
かなめは小野寺に、油断しきった言葉を返す。
先ほどからあまりに平和なそうなデート風景を見せ付けられていたため、完全に気が緩んでいた。
「見失うといかん。もう少し近寄りながら追いかけよう。」
宗介の言葉に従い、二人がついてくる。
気配を悟られぬように路地裏を進んで行くと、アメリカのスラムにあるような小さな広場のように開けた場所にでる。
「近道・・・って雰囲気じゃねーな。」
「なによここ?怪しすぎるわよ。」
「ヤツめ、とうとう尻尾を出したな。」
前に出ようとするかなめと小野寺をを制しながら、宗介は油断無く銃を構える。
薄暗く危険な雰囲気が充満した空間に、理緒も怪しく思ったのか先輩に聞いていた。
「先輩、行き止まりみたいなんですけど・・・」
「槙原さん、俺達って恋人同志でしょ?高校生にもなったら大人の付き合い方ってのがあるよね。」
理緒の肩に手をかけながら男が言う。
理緒は先輩の表情が、先ほどのものとは別のいやらしい笑顔に変わっていることに気が付いた。
「い、イヤ!」
理緒は先輩の手を振り解き、突き飛ばしていた。
「私、帰ります!」
「ふっ・・・まだ帰らせはしないよ。」
先輩の言葉に従い、物影から出てきた10人程の男達が、怒りながら帰ろうとする理緒の前に立ち塞がる。
不良風の格好をした男達は、全員が警棒や木刀で武装していた。中にはナイフを持った者までいる。
「ち、ちょっと。ヤバイんじゃない?宗介、なんとかしてよ!」
「くっ!今の装備では威嚇しか出来ない。一瞬で全滅させなければ、相手を刺激して槙原を危険に晒す事になる。」
かなめにだけしか聞こえない声で宗介がつぶやく。
「二人とも焦るなよ。大丈夫だって。まぁ、しばらく見てな。」
焦る二人に平然と小野寺が言った。
「黙って従ってりゃあ痛い目にを見ないで済んだのにな。おい、少し大人しくさせてやれ。」
男達のの言葉に従い、不良1が警棒を持って理緒に近づく。
焦る宗介達とは対照的に、小野寺は平然と呟いていた。
「出るぞ、野獣の牙『ホワイト・ファング』だ。」
黙ってうつむいている理緒に近づいた不良1が、不気味な笑顔を見せながら横薙ぎに警棒を繰り出す。
かなめと宗介が息を飲んだ瞬間、一同の目の前で信じられない出来事が起こった。
理緒は、どこから取り出した分からない、長さの違うハリセン2本を上下から繰り出す。
ごきん!と、鈍い音を立てて警棒は柄の部分を残して地面に落ちた。
不良1は信じられないといった表情で理緒の方を見る。
他の不良達は不良1の後ろ姿で隠れた理緒の攻撃を見ていない。
動かない二人の様子を見て、理緒が殴られて戦意喪失したと勘違いした不良達が群がる。
理緒の方は呆然とする不良の影で、∞の回転運動しながら不良達を待ち構えていた。
「いかん!」
急いで銃を構える宗介を小野寺が止める。
「慌てるなって。次は『デンプシー・ハリセン』だ。」
すぱぱぱぱぱぱぱぱぱ〜ん!!
小野寺の言葉からわずか2秒。近づいてきた不良達は全員が白目をむいて地面に倒れていた。
「な、何よアレ!あきらかにハリセンの威力じゃないわよ。」
「大貫氏といい、槙原といい、この学校は超人揃いか・・・?」
宗介とかなめは呆気にとられていた。
「だから大丈夫って言っただろ。でも、問題はこれからだぜ。」
「そういえば・・・あの先輩、剣道の都代表だったわね。」
その先輩は倒れた仲間から木刀を拾い、理緒と対峙していた。
理緒は長い方のハリセンを捨て、短いハリセン1本を構える。
二人はそのまま動かずに相手の動向をうかがっている。
「『屍山血河28号』1本だけを構えたか・・・ヤバイな。」
小野寺の言葉にかなめが怪訝そうな顔で聞いてくる。
「何よそれ?それに何でヤバイの?」
「ハリセンの名前だよ。あいつがあれ1本しか持ってないってことは、本気になってる証拠なんだ。ということは、あの先輩はかなり強い。千鳥、相良、援護してくれ。相良は威嚇、千鳥はあいつの所まで俺を飛ばしてくれ。」
「了解した。」
宗介は小野寺の言葉に従い銃を構える。
「いくわよ、準備はいい?」
かなめもどこからともなくハリセンを取りだして構える。
「行くぞ!」
宗介が物影から飛び出し先輩の足元に銃弾を叩きこむ。
次の瞬間、かなめが小野寺の背中をハリセンで張り飛ばした。
勢い良く飛んで行った小野寺が、足元に気を取られた男に蹴りを叩き込む。
「今だ!行けぇ!」
小野寺の蹴りで飛んでいった先輩に、理緒のハリセンが唸りをあげた。
すっぱ〜ん!!
吹っ飛ばされた先輩をを横目に、宗介達は慌てて理緒の方に近寄ろうとする。
「来ないで!」
その言葉に3人は立ち止まる。
「お願い、しばらく1人にさせて・・・」
そう呟いた後、理緒は男達を踏みつけながら路地から走り出て行く。
3人も理緒を追いかけて路地裏から出たが、走力が圧倒的に違うため見失ってしまった。
3日後。
「まきちゃん大丈夫かしら?もう3日も学校に来てないし。」
かなめは陣校前の通学路を歩きながら宗介に話し掛けた。
「うむ。あの後、小野寺に探すなと言われて帰ったが心配だ。」
その二人の横で、トレーナー姿で走って来た小柄な少女が立ち止まる。
「あ、カナちゃん、ソースケ君、おっはよー!」
「ま、まきちゃん!?」
「カナちゃん、ソースケ君、この間ははゴメンね。ありがとう。」
驚く二人に理緒は、今にも泣きそうな笑顔を無理やり作って礼を言う。
「礼などいい。俺達は当然の事をしたまでだ。」
「そうそう、あたしたち友達でしょ。」
二人の言葉に理緒に少し笑顔が戻る。
「よっ!元気になったみたいだな。」
理緒の背後から突然現れた小野寺が言う。
「まあね。そういえば、母さんに尾行を頼まれたんだって? ウチの母さん、そんなこと頼んでないって言ってたんだけどぉ。」
ハリセンを振り上げながら、不気味な笑顔で理緒が威圧する。
「ま、待て!俺は相良の言葉が気になって、ってまあ確かに頼まれて無いけど、もし俺達がいなかったら・・・」
小野寺は焦っているため言葉が上手く出てこない。
「う・そ。ありがとね。」
慌て逃げようとする小野寺に、理緒はハリセンをどこかにしまって笑顔で応える。
「あ、もうこんな時間!早く着替えなきゃ予鈴が鳴っちゃう。じゃあね!」
そう言うなり、理緒は走り去ってしまった。
その後ろ姿を見つめながら、かなめと宗介が安心したようにつぶやく。
「元気になったようだな。」
「よかった、もう大丈夫そうね。」
二人の言葉に小野寺も返答を返す。
「あぁ、もう大丈夫だぜ。いい笑顔してる。」